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最高裁判所第2小法廷平成31年1月18日判決

このページでは、最高裁判所第2小法廷平成31118日判決(民集7311頁)について紹介する。


  • はじめに

最高裁判所第2小法廷平成31118日判決は、当事者に判決内容を了知する機会が与えられずに不服申立ての機会も実質的に与えられないまま確定した外国裁判所の判決の日本での効力を承認できない旨判断したものであり、手続的公序についての判断基準を初めて示したものとして意義がある。なお、最高裁判所第3小法廷令和3年5月25日判決の事案と同様のものである。


  • 事案の概要

<当事者>

Xは本店をアメリカ合衆国カリフォルニア州におき、カリフォルニア州において日本食レストランを運営する会社である。

Yは本店を大阪府大阪市におき、不動産売買に関する各種業務を行う会社である。

<カリフォルニア州>

Xは、YがXの企業秘密を持ち出した等と主張して、カリフォルニア州オレンジ郡上位裁判所に損害賠償請求訴訟を提起した。

Yはカリフォルニア州弁護士であるAを訴訟代理人に選任した上で応訴したが、Aは訴訟手続の途中で訴訟代理人を辞任した。

Yがその後の期日を欠席したため、オレンジ郡上位裁判所にYの欠席の登録がなされた。

オレンジ郡上位裁判所は、Yに対し、約275000ドルの支払を命ずる欠席判決(以下「本件オレンジ郡判決」という。)を言い渡し、オレンジ郡上位裁判所に本件オレンジ郡判決の登録がなされた。

Xの訴訟代理人は、Yに対し、本件オレンジ郡判決の判決書の写しを添付した判決登録通知を発送したつもりであったが、宛先に誤記があったため、送達できなかった。

本件オレンジ郡判決の登録の日から180日後、本件オレンジ郡判決は確定した。

<日本>

その後、Xは、本件オレンジ郡判決に基づく強制執行による債権回収を行うために、大阪地方裁判所に執行判決請求訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起した。

本件訴訟において、Yは、本件オレンジ郡判決の判決書の写しの送達を受けておらず、その内容も了知できなかったとして、本件オレンジ郡判決の日本での効力を承認するべきではない旨反論した。


  • 下級裁判所の判断

<大阪地方裁判所>

大阪地方裁判所平成281130日判決(民集73117頁)では、Yに本件オレンジ郡判決の内容を了知する機会が与えられていたはずであり、防御の機会が不十分であった旨のYからの立証もなく、本件オレンジ郡判決の日本での効力を承認できる旨判断された。

結局のところ、Yの反論は認められなかった。

<大阪高等裁判所>

大阪高等裁判所平成2991日判決(民集73127頁)では、大阪地方裁判所の判断が不当である旨判断され、Yの反論が認められた。


  • 最高裁判所の判断

最高裁判所第2小法廷平成31118日判決(以下「本件最高裁判決」という。)では、以下①及び②のとおり判断され、本件訴訟は審理が不十分であるとして大阪高等裁判所に差し戻された。

①「外国裁判所の判決(以下「外国判決」という。)が民訴法118条により我が国においてその効力を認められるためには、判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないことが要件とされているところ、外国判決に係る訴訟手続が我が国の採用していない制度に基づくものを含むからといって、その一事をもって直ちに上記要件を満たさないということはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決に係る訴訟手続は、同条3号にいう公の秩序に反するというべきである(最高裁判所第2小法廷平成9711日(民集5162573頁)参照)。」

②「我が国の民訴法においては、判決書は当事者に送達しなければならないこととされ(255条)、判決に対する不服申立ては判決書の送達を受けた日から所定の不変期間内に提起しなければならず、判決は上記期間の満了前には確定しないこととされている(116条、285条、313条)。そして、送達は、裁判所の職権によって、送達すべき書類を受送達者に交付するか、少なくとも所定の同居者等に交付し又は送達すべき場所に差し置くことが原則とされ、当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れないなど上記の送達方法によることのできない事情のある場合に限り、公示送達等が例外的に許容されている(98条、101条、106条、107条、110条)。他方、外国判決が同法118条により我が国においてその効力を認められる要件としては、「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」を受けたことが掲げられている(同条2号)のに対し、判決の送達についてはそのような明示的な規定が置かれていない。さらに、以上のような判決書の送達に関する手続規範は国ないし法域ごとに異なることが明らかであることを考え合わせると、外国判決に係る訴訟手続において、判決書の送達がされていないことの一事をもって直ちに民訴法1183号にいう公の秩序に反するものと解することはできない。もっとも、我が国の民訴法は、上記の原則的な送達方法によることのできない事情のある場合を除き、訴訟当事者に判決の内容を了知させ又は了知する機会を実質的に与えることにより、当該判決に対する不服申立ての機会を与えることを訴訟法秩序の根幹を成す重要な手続として保障しているものと解される。したがって、外国判決に係る訴訟手続において、当該外国判決の内容を了知させることが可能であったにもかかわらず、実際には訴訟当事者にこれが了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより、不服申立ての機会が与えられないまま当該外国判決が確定した場合、その訴訟手続は、我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものとして、民訴法1183号にいう公の秩序に反するということができる。」


  • 解説

<欠席判決>

欠席判決(default judgment)とは、訴訟の一方当事者が期日を欠席した場合に、出席当事者の主張に依拠して言い渡される判決であり、カリフォルニア州等のアメリカ合衆国各州では、制度として認められている。

もっとも、カリフォルニア州では、欠席判決を言い渡すには、裁判所に欠席の登録(entry of default)をする必要があり、その前提として、欠席登録申請書を欠席当事者に送達する手続が必要となる等、欠席当事者への手続保障が図られているが、いったん裁判所に欠席の登録がなされると、関係書類を欠席当事者に送達する手続が不要となる。

日本では、明治23年制定民事訴訟法により、欠席判決が制度として認められていたが、大正15年改正民事訴訟法により、欠席判決は廃止された。

なお、現行民事訴訟法は、訴訟の一方当事者が期日に欠席した場合に、出席当事者の主張した事実を自白したものとみなす旨規定しており、結果として、出席当事者の主張に依拠した判決が言い渡されることがあるため、このような判決も含めて欠席判決ということがある。

しかし、アメリカ合衆国各州で認められている欠席判決は、欠席当事者に対して制裁を加えようというものであり、日本の現行民事訴訟法の規定により結果として言い渡される欠席判決とは性質が異なる。

その意味で、アメリカ合衆国各州で認められている欠席判決を特に「懈怠判決」と呼ぶこともある。

<カリフォルニア州の控訴期間>

カリフォルニア州の控訴期間は、判決登録(entry of judgment)の日から180日間又は判決登録通知の送達の日から60日間のいずれか早い方である。

<本件訴訟>

仮に、民事訴訟法118条が存在しない場合には、外国裁判所で時間や労力をかけて自らに有利な判決の言い渡しを受けた当事者は、日本で再度初めから訴訟を提起しなければならない。

そこでは、準拠法の適用も含めて外国裁判所の判決とは異なる判決が言い渡される可能性も否定できない。

民事訴訟法118条の趣旨は、このような不当な事態を回避するべく、外国裁判所で自らに有利な判決の言渡しを受けた当事者に国境を越えた権利保護を与えようというものである。

本件最高裁判決では、外国裁判所の判決について、判決書が送達されなかったことの一事をもって直ちに民事訴訟法1183号の手続的公序に違反するものとして日本での効力を承認できないとするのは不当である旨判断されたが、最高裁判所として、訴訟手続が国によって様々であることを当然の前提とした上で、国境を越えた法的交流に一定の理解を示したこととなる。

もっとも、判決書が送達されなかったことを軽視して良いわけではなく、本件最高裁判決では、当事者に判決の内容を了知する機会が与えられずに不服申立ての機会も実質的に与えられないまま確定した外国裁判所の判決については、手続的公序に違反するものとして日本での効力を承認できない旨判断された。

最高裁判所としては、当事者に不服申立ての機会が実質的に与えられていたか否かを、手続的公序に違反するか否かの決定的に重要なメルクマールとして提示したこととなる。

なお、差戻審である大阪高等裁判所令和元年104日判決(民集7562949頁)では、本件オレンジ郡判決の内容がYに了知されたことが詳細に認定された上で、Yに控訴申立ての機会が実質的に与えられていた旨判断された。

結局のところ、Yの反論は認められなかった。

<実務的影響>

実務的には、本件最高裁判決により、当事者に不服申立ての機会が実質的に与えられていたか否かが決定的に重要となるという点で影響がある。

外国裁判所で自らに有利な判決の言渡しを受けた当事者が、日本での効力を検討する場合には、当該判決の内容が他方当事者に了知されるよう各種手続を進める必要があり、他方当事者に不服申立ての機会が実質的に与えられていたことを基礎付ける必要がある。


  • 参考文献

・兼子一他『条解民事訴訟法 第2版』620頁〔竹下守夫〕(2011年)

・酒井一「アメリカの欠席判決(デフォルト・ジャッジメント)の執行可能性」法学教室464121頁(2019年)

・安達栄司「外国欠席判決の不送達は手続的公序(民訴法1183号)に反するか」速報判例解説25159頁(2019年)

・横溝大「外国判決承認における判決書の送達の有無と手続的公序」ジュリスト1538135頁(2019年)

・川嶋四郎「外国判決の承認と手続的公序(民訴法1183号)」法学セミナー779118頁(2019年)

・土井文美「訴訟当事者に判決の内容が了知されず又は了知する機会も実質的に与えられなかったことにより不服申立ての機会が与えられないまま確定した外国裁判所の判決に係る訴訟手続と民訴法1183号にいう公の秩序」ジュリスト154185頁(2020年)

・早川吉尚「外国判決承認における判決書の送付の有無と手続的公序」令和元年度重要判例解説292頁(2020年)

・村上正子「訴訟当事者に不服申立ての機会が与えられないまま確定した外国欠席判決に係る訴訟手続と民訴法1183号の公序」令和元年度重要判例解説126頁(2020年)

・山田恒久「米国加州裁判所により下された欠席判決と民事訴訟法1183号にいう手続的公序」速報判例解説26325頁(2020年)