民法改正① 賃貸借契約
このページでは民法改正が賃貸借契約に与える影響について解説します。
1 民法改正について
2017年5月に民法の一部を改正する法律が成立し、一部の規定を除いて2020年4月1日から改正された民法(以下「新法」といいます。)が施行されます。本稿では、私達に身近である賃貸借契約について、新法による改正事項のうち主要な点について解説します。
2 処分の権限を有しない者による賃貸借について
改正前の民法(以下「旧法」といいます。)では、処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、短期の賃貸借しかすることができないものとされていました。この規定について、制限行為能力者が単独で賃貸借契約を締結できるとの誤解を与えるおそれがあるため、この規定から「処分につき行為能力の制限を受けた者」という文言が削除されました(新法602条)。
また、旧法では処分の権限を有しない者による賃貸借契約について、法定の期間以上の契約がされた場合の効力について規定されていませんでしたが、新法では法定の期間を超える部分についてのみ無効となることが明文化されました(新法602条後段)。
3 賃貸借契約の存続期間について
旧法では、賃貸借契約の存続期間の上限は20年と定められていました。この点について、新法では、賃貸借契約の存続期間の上限が50年とされました(新法604条)。もっとも、不動産に関しては、建物賃貸借や建物の所有を目的とする土地賃貸借契約には借地借家法が適用されますので、改正前から存続期間に上限はないため、今回の改正により影響が出るのはゴルフ場の敷地、太陽光パネルを設置場所、駐車場などの建物所有を目的としない賃貸借契約に限られます。
4 賃貸目的物の一部が使用できなくなった場合について
旧法では、賃貸借契約の目的物が一部滅失した場合に賃借人の請求によって賃料減額請求を認めていましたが、新法では賃借人の請求がなくとも、賃料は当然に減額されるものとされました(新法611条1項)。併せて、賃料減額請求の対象も、目的物の一部滅失の場合に限られず、より広く一部が使用収益をすることができない場合とされました。
5 賃貸目的物の修繕義務について
旧法では解釈が分かれていた、賃借人の責めに帰すべき事由により賃貸目的物に修繕が必要となった場合における賃貸人の修繕義務について、賃貸人が修繕義務を負わないことが明文化されました(新法606条1項ただし書き)。
6 賃貸借契約の解除について
旧法では、賃貸借契約の目的物が賃借人の過失によらず滅失し、残存部分では契約目的を達成できない場合は、賃借人は契約の解除ができる旨定められていました。これを反対解釈すると、目的物の滅失につき賃借人に過失がある場合には、契約の解除ができないことになります。新法ではこの点につき、目的物の滅失につき賃借人に責めがある場合であっても、契約の解除ができるとされました(新法611条2項)。
また、賃貸目的物の全部が滅失その他の事由により使用収益することができなくなった場合は、賃貸借契約は終了するものとされました(新法616条の2)これは旧法に明文の規定はなく、判例が存在したものを明文化したものです。
7 賃借権に基づく妨害排除請求について
旧法では、賃借権に基づく妨害排除請求、返還請求については規定されておらず、判例で対抗要件を備えた不動産の賃借人について、妨害排除請求や返還請求が認められていましたが、新法ではこれが明文化されました(新法605条の4)。
参考文献:(筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務(2018年)