〒105-0003 東京都港区西新橋1-21-8 弁護士ビル407
Tel:03-6826-1950 (代表) Fax:03-6826-1951

労働② 労働者の採用について

このページでは労働者の採用について説明します。

1.労働者の採用

使用者が労働者を雇用する場合、労働者に一定の事項についての申告を求めるなどの調査を行うことも使用者の採用の自由から認められています。ただし、調査といっても労働者のプライバシー保護の観点から無制限に認められるわけではなく、法令による制約を受ける場合や、一定の場合に労働者に対する不法行為となる場合があるので注意が必要です。また、厚生労働省の「公正な採用選考を目指して」というリーフレットも参考になります。

また、労働者を雇用する際に、一定の例外を除き年齢制限を設けることは禁止されており、これは使用者の義務となっています(雇用対策法10条)。

使用者は、労働者の募集を自ら行うことの他に、ハローワークや民間の職業紹介事業者といったところから労働者の斡旋を受けることも可能です。ただし、民間の職業紹介事業者を利用する場合(有料・無料を問いません。)には、当該事業者がきちんと厚生労働大臣の許可(職業安定法30条1項、33条1項。)を得ているか厚生労働省職業安定局のサイトなどで確認することも必要でしょう。

なお、使用者が、雇用する労働者からの紹介を受けて、新たに労働者を雇い入れる場合、それに対して報酬を支払うことは職業安定法違反になる可能性があるので注意が必要です(職業安定法40条)。

 

2.労働条件の明示義務

使用者は、労働契約を締結するに際して、賃金、労働時間などの労働条件を明示しなければならないとされています(労働基準法15条1項)。多くの企業では労働条件通知書が交付されているかと思われます。

また、労働者の募集を行う際にも、労働者に対して、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない旨が定められています(職業安定法5条の3第1項)。なお、求人広告や求人票などの労働者を募集する書面に記載された労働条件については、いわゆる「申込みの誘引」として、一般的には直ちに労働契約の内容にはならないと考えられます(ただしケースバイケースです。)。ただ、賃金などの労働者にとって重要な労働条件について、求人広告に記載された労働条件と現実が大幅に異なる場合は、信義則違反として差額分の賃金請求が認められる余地があります。

また、青少年の雇用の促進等に関する法律では、学校卒業の見込みを条件とした、いわゆる新卒者の募集を行う際には、青少年の募集及び採用の状況や職業能力開発に関する情報などの一定の情報につき、情報提供に努めなければならないとされています。また、応募者からの求めがある場合には情報提供は義務となります。その他、労働者派遣法など様々な法律により労働条件の明示義務は定められています。

なお、労働契約を締結した際に明示された労働条件が大幅に異なる場合、労働者は労働契約を即時解除することができます(労働基準法15条2項)。この解除により14日以内に労働者が帰郷する場合は、必要な旅費について使用者が負担することになります(労働基準法15条3項)。

 

3.採用内定

採用内定における法律関係は事案によりケースバイケースですが、①使用者による募集→②労働者の応募→③採用試験の受験・選考→④採用内定通知といった採用プロセスを経た上で採用内定が出され、採用内定通知の他に労働契約締結のための特段の意思表示が予定されていなかった場合は、内定者との間で「始期付きかつ解約権留保付きの労働契約」が成立していると解されています。

なお、公務員については採用内定により勤務関係(労働契約ではありません。)が成立するわけではなく、任命などの行政行為があってはじめて勤務関係が成立するものとされています。

いわゆる内定取消しについては留保解約権の行使ということになりますが、これは無制限に認められるわけではなく、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由が認められ社会通念上相当」な場合に限り適法であると解されています。

他方で、内定者の側から内定辞退をすることも可能ですが、この場合に使用者側が内定者に対して損害賠償をすることは一般的に難しいといえます。

 

4.身元保証人

日本では、労働者を雇用するにあたっては、親族などの身元保証人を立てることが多いですが、身元保証人が負担する責任に関しては「身元保証ニ関スル法律」という法律により責任の範囲が限定されています。

この法律では、身元保証契約の期間・更新や責任の範囲などについて定められており、身元保証人の損害賠償義務に関しては、諸所の事情を考慮して裁判所が決定することとされています。裁判所の認定額としては使用者に生じた損害の一部のみを負担させるケースが多く、事情にもよりますが全額を負担させることは一般的に困難であるといえます。

なお、この法律は強行法規であり、身元保証人に不利な契約をしたとしても無効となることに注意が必要です。