労働① 就業規則について
このページでは就業規則について説明します。
1.就業規則とは
一般的な企業においては、多数の労働者が就労するため、画一的に労働条件や服務規律などを定める必要があり、就業規則が制定されることが一般的です。
就業規則により労働条件を定めた場合、その労働条件が合理的なものであり、かつ、就業規則を労働者に周知させていた場合は、その就業規則で定めた労働条件が労働契約の内容となります(労働契約法7条本文。これを労働契約規律効といいます。)。また、就業規則の一部について賃金規程などの別規定で定めることも差し支えありません。この場合は当該別規定が就業規則の一部となりますので、労働契約規律効が及ぶことになります。
労働者との間で締結した労働契約において、就業規則よりも不利な労働条件を定めた場合は、当該労働条件は無効となり、就業規則で定める基準によることになります(労働契約法12条、労働基準法93条。これを最低基準効といいます。)。なお、労働者と個別の合意により、就業規則よりも有利な労働条件で合意することは妨げられません(労働契約法7条但書)。
なお、就業規則が強行法規や労働協約に違反する場合は、労働契約規律効及び最低基準効の効果は生じません(労働契約法13条)。
2.就業規則の作成義務
1つの事業場につき「常時10人以上の労働者を使用する使用者」については、就業規則の作成した上で、所轄労基署長へ届出る義務があります(労働基準法89条)。常時10人以上を使用するとは、常態として10人以上を使用するという意味であるとされています。これに違反した場合は、30万円以下の罰金に処するとされています(労働基準法89条)。
なお、常態として10人未満を使用する会社には就業規則の作成義務はありませんが、任意で作成することは差支えありません。その場合は、上述のとおり就業規則の内容は労働契約の内容となりますが、所轄労基署長に対する届出義務はありません。
正社員、臨時職員、パート社員などの労働者の雇用形態に応じて別個の就業規則を作成することは差支えありませんが、一部の労働者について何らの就業規則も適用されない状態となる場合は、作成義務違反の状態となることに注意が必要です。
就業規則を作成するにあたっては、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。」とされています(労働基準法90条1項)。この点、過半数で組織する労働組合が存在しない場合の「労働者の過半数を代表する者」の選出にあたっては、管理監督者(労働基準法41条2号)ではないこと及び当該事業場の労働者全員が参加しうる投票又は挙手の方法により選出されたものである必要があります(労働基準規則6条の2第1項)。この就業規則に対する意見聴取義務は、あくまで意見を聴取するだけでよく、同意を得る必要まではないことに注意が必要です。聴取した意見は、就業規則の届出の際に添付書面として必要になります(労働基準法90条2項)。
3.就業規則に記載すべき事項
就業規則に記載しなくてはならない事項は必要的記載事項と呼ばれており、その一部を欠いている就業規則は作成義務違反の問題が生じます。必要的記載事項は大きく分けて絶対的記載事項と相対的記載事項に分かれます。
絶対的記載事項とは就業規則に必ず記載しなければならない事項です(労働基準法89条1号~3号)。
① 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
② 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
相対的記載事項とは、当該事項について就業規則で定める場合には記載しなければならない事項になります(労働基準法89条3号の2~10号)。
① 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
② 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
③ 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
④ 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑤ 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑦ 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
⑧ 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
なお、上記の必要的記載事項の一部を欠く就業規則であっても、就業規則全体が無効となるわけでありません。
4.就業規則の変更について
労働条件を変更するためには原則として労働者との合意による必要があります。もっとも、就業規則の変更により労働条件を変更することも可能です。就業規則で労働条件を変更する場合、変更される労働条件が労働者にとって有利か不利益かによって規律が変わります。
変更される労働条件が労働者にとって有利な場合は、就業規則の最低基準効が及ぶことから、労働者との合意の有無にかかわらず、当該労働条件が労働契約の内容となります(菅野和夫・労働法(第11版補訂版・2017年)・弘文堂・203頁)。
他方で、変更される労働条件が労働者にとって不利益な場合は、原則として労働者との合意なくして就業規則の変更により、労働条件を不利益に変更することはできません(労働契約法9条本文)。
ただし、例外として、「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」は就業規則の変更により労働条件を変更することが認められます(労働契約法10条本文)。この条文は判例法理を明文化したものであり、その解釈適用にあたっては様々な事情を考慮する専門的判断が必要となります。